日本のEVスタートアップ、軽や自動運転に活路も数少なく (日本経済新聞, 12-13)
HWエレクトロ(東京・江東)の商用軽EV「パズル」試作車。設計や車内空間を徹底的に合理化した
国内最大の自動車ショー「ジャパンモビリティショー2023」には大手だけでなく、日本のスタートアップ企業も数多く参加した。電気自動車(EV)では軽自動車や完全自動運転技術などをアピールしたが、海外勢では米テスラや中国・比亜迪(BYD)などの新興メーカーが既にEV市場を席巻する。専門家は「必要な投資額が大きいので参入が難しく、日本のスタートアップは数が少ない」とする。
ジャパンモビリティショーは自動車の枠を越えた業界の連携を目指しており、スタートアップの参加も重要テーマに掲げられた。10月25日〜11月5日の会期中は、スタートアップに対して個人投資家や専門家によるアドバイスが受けられるコーナーのほか、事業プレゼンコンテストも実施。100社以上の参加を見込んだ。
「次世代モビリティ」と題した会場には多くのスタートアップが集まった。中でも簡略化した構造やバッテリー価格の低下などによって、開発が活発化している小型EVが目立った。
商用の軽EV「パズル」の試作車を披露したのはHWエレクトロ(HWE、東京・江東)だ。2025年春の発売を目指す。HWEはファブレスのスタートアップで、これまでは輸入した商用EVを日本向けに改良して販売していた。今回、初めて自社で開発・製造する新車種としてパズルを発表した。
パズルは店舗や物流倉庫から消費者の元に荷物を届ける「ラストワンマイル」での活用を見込む。荷物を運ぶ車としての利便性を最優先しており、荷物を置くスペースは無駄を極限までなくした長方形。HWE担当者は「アプリと連携したコネクテッド技術も独自に開発中だ」と話す。
HWEはパズルのデザインを簡素にすることで、1台当たりの販売価格を200万円台に抑える。車体のフロント部分や屋根の一部、ドアなどの複数箇所については同じパネルから製造できるようにすることで効率化も狙う。
脱炭素社会への対応を迫られる中、運輸会社にとって商用EVの注目度は高い。日本の大手自動車メーカーも力を入れており、三菱自動車が「ミニキャブ・アイミーブ」を再販しているほか、ホンダも今回のモビリティショーで24年春の販売を目指す商用EVを展示。競争が激化しているが、HWEは価格競争力で勝負する考えだ。
FOMM(フォム、横浜市)も軽EVを発表した。26年ごろの発売を目指す。タイヤが90度回転する仕組みになっており、真横への移動もできる点が特徴。自動運転と組み合わせることで狭い場所でも縦列駐車が可能になる。車内に広い空間を確保し、輸送用としての活用も見込む。価格は200万円以下に抑える。
フォムはスズキの元技術者で、トヨタ車体の小型EV「コムス」の開発にも関わった鶴巻日出夫社長が13年に創業したスタートアップ。超小型EVの開発を進めてきており、タイヤの近くにモーターを配置する仕組みや交換式バッテリーなどを取り入れたEV設計を得意とする。
TURING(チューリング、千葉県柏市)は完全自動運転のEVメーカーを目指す。山本一成最高経営責任者(CEO)は深層学習を用いた将棋の人工知能(AI)を開発する技術者だったが、21年にチューリングを起業した。
チューリング(千葉県柏市)が開発した試作車の前に立って説明する山本一成CEO
強みとするのはソフトウエアの技術で、EVには自社で開発中の自動運転システムを搭載する予定だ。高価なセンサーを使わずにカメラ映像を分析することでコストを抑え、人間の脳のように複雑な状況を理解するAI技術を磨く。既に運転手が同乗して状況に応じて手動運転に切り替える「レベル2」は公道走行に成功した。
モビリティショーでは試作車も展示。車両の設計や制御、製造といったノウハウを獲得するために車台やボディーも自社で開発した。25年に年100台のEVを生産し、27年には完全自動運転のEVの量産を始める計画という。
ソフトウエアの開発人材を増員するほか、量産に向けた自社工場も建設中で山本氏は「車を売る完成車メーカーになる」と意気込む。
日本、大型スタートアップ育たず
EV関連スタートアップにも注目が集まったモビリティショーだったが、テスラを擁する米国、BYDの中国と比べてその数は少なく、規模も見劣りする。テスラは22年までに年130万台、BYDは年90万台のEVを生産する規模に育っているのに、日本のスタートアップに同等の規模の会社は出てきていない。
チューリングの山本氏は「日本では本気で自動車メーカーになろうという新しい動きが少なかった。悔しかったので自ら起業した。テスラを超えたい」と息巻く。ただテスラやBYDは日に日に伸長しており、日本の大手自動車メーカーですら追いつけるかは未知数だ。
米アリックスパートナーズの鈴木智之マネージングディレクターは「EVの車両開発やバッテリー開発には多額の資金が必要になる。国策で支援する中国では多くの企業が立ち上がっているが、日本では政府のバックアップがかなり限定的」と語る。
スタートアップの育成は新たなプレーヤーの出現やイノベーションにつながる。鈴木氏は「日本として自動車産業を守るには、もっと積極的に国から補助金を出していくことが必要。官民ファンドを中心としてスタートアップに資金提供していくのも手だ」と指摘。このまま脱炭素社会に向けてEV需要が高まっていくとすれば、長期的な目線でEV関連スタートアップを育成する仕組みづくりが急務になる。
(日経ビジネス 薬文江)