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タイ首相「EV・水素で日本企業誘致」　税制優遇など検討 (日本経済新聞, 12-12)

【バンコク=井上航介】タイのセター首相は12日、バンコクで日本経済新聞の単独インタビューに応じた。日本企業を含む外国企業を誘致して電気自動車（EV）や水素など脱炭素産業を育成するため、税制優遇やビザ（査証）発給の緩和を検討すると明らかにした。

9月に首相に就いたセター氏が日本メディアの単独取材を受けるのは初めて。

セター氏は投資拡大を続ける中国のEV企業などを念頭に「日本企業は新分野への投資に積極的ではない」と指摘した。「企業が円滑に環境配慮型のビジネスに転換できるようにするのが私の役目だ」と述べ、投資誘致の追加策に取り組む方針を示した。

セター政権はタクシン元首相派と親軍派を含む旧与野党の連合体だ。タイは20年近くタクシン派と反タクシン派の対立が続き、軍事クーデターを招いた過去がある。今回大連立で政権をつくったことで下院で安定多数の議席を確保した。セター氏は「政治的な安定は外国企業の投資環境としてもプラスに働く」と述べた。

もっとも5月の下院選で第1党となったのは151議席を獲得した民主派野党「前進党」だ。セター氏が所属するタクシン派「タイ貢献党」は連立枠組みから前進党を排除したことから民意をゆがめたとの批判は根強い。セター氏は「我々は民主的な手続きを踏んだ」と主張し、国軍が政治に関与する可能性を否定した。

セター氏はタイの不動産開発大手「センシリ」の社長兼最高経営責任者（CEO）を務めた経歴があり、元経営者としての手腕が期待されている。「外国から投資を呼び込むためのセールスマンであることを心がけている」と述べ、経済を重視した外交を展開すると強調した。

タイは新興国の成長が鈍化する「中所得国の罠（わな）」にはまった典型例とされる。EVなど環境問題に関わる産業の育成を通じた経済発展を模索している。

足元では中国経済の悪化で輸出や主力の観光産業が低迷している。タイ中央銀行は11月末に24年の成長率予想を下方修正したばかりだ。

セター氏は現在のタイ経済について「厳しい状況」との認識を示した。個人消費を上向かせるために自身の目玉政策である、1人1万バーツ（約4万円）のデジタル通貨を給付する政策が不可欠だと強調した。

セター氏は16〜18日の日程で開催する「日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議」に出席する。